研究と蓄積、その活用

レーザー核融合炉で安定して発電を持続するには、『燃料となる重水素と三重水素をレーザーで圧縮し、点火させる』ということを何度も繰り返す必要があります。では、これを実現するための設備はどのようなものでしょうか?

現在、我々が参考にしているのは「LIFT」と呼ばれる高速点火方式に基づくレーザー核融合実験炉のデザインです(図1)。このデザインは2017年に大阪大学レーザー科学研究所の乗松教授のチームによって提唱されました(原著論文)。

まず、炉心に向かって約100m/sの速さまで加速された燃料ターゲットを投射します。燃料が炉心に到達すると同時に四方八方からレーザーを照射することで燃料ターゲットを圧縮し、さらに別のレーザーで燃料を点火し核融合反応を引き起こします。この反応により生成された中性子のエネルギーは、炉心を囲む「ブランケット」と呼ばれる装置で吸収され、熱交換器により水を温めてタービンを回し、電気エネルギーに変換されます。ターゲットの投射から燃料の点火までのサイクルを1秒間に約10回の頻度で安定して繰り返すことができれば、発電所として運用が可能だと考えられています。

図1. レーザー核融合実験炉 LIFTの炉心デザイン

 

これを実現するためには、

  • 燃料ターゲットを一定の周期で繰り返し供給する装置
  • 動いているターゲットをレーザーで追尾する装置

が必要になります。そこで我々は光産業創生大学院大学との共同研究により、1秒間に10回の頻度で模擬ターゲット(直径1mmの鉄球)を繰り返し自由落下させ、その軌道をセンサーで追跡し、予測した落下位置とタイミングに合わせてレーザーを照射するシステムを開発しました(図2)。

図2. ターゲット供給とレーザー追尾の実証実験装置

 

ターゲット供給装置(図2の①)に数百個の模擬ターゲット(図2の②)を入れておき、1秒間に10回の頻度で、1個ずつ落下させます。図2は、落下した模擬ターゲットをセンサーで検知しレーザーを照射する様子を描いています。落下した模擬ターゲットが追跡センサー(図2の③)を通過すると、センサーの出力信号がレーザー追尾装置(図2の④)へと送られます。レーザー追尾装置では、追跡センサーからの信号の時間の差を測っていて、この時間差からレーザーを照射する位置までにかかる時間を算出しています。これにより、レーザー照射位置に模擬ターゲットが到達するタイミングに合わせてレーザーを照射する事が出来ます。しかし、レーザー照射位置での模擬ターゲットの位置は一定ではなく、左右に数ミリメートルふらつきます。これはターゲット供給装置を製造した際のほんの少しの誤差や、球体と装置との摩擦の変化などの影響によって生じるランダムなゆらぎで、打ち込み方式のLIFTにおいても生じると考えられています。そこで開発されたのがレーザー追尾装置です。追跡センサーでは、模擬ターゲットの通過時間だけではなく、通過場所も測定しています。測定された通過位置から、位置のずれをレーザー追尾装置で計算しています。レーザーの経路には複数の反射ミラーがあり、そのうちの一つの角度をモーターで遠隔操作出来るようになっています(図2の⑤)。算出された位置のずれを元に、反射ミラーの角度を制御し、落ちてくる模擬ターゲットの中心にレーザーを照射できるようになりました。この様子をカメラ(図2の⑥)で撮影し、鉄球の中心とレーザーの中心位置を画像解析で求めたところ、とても良い精度で一致している事がわかりました。今はまだ原理検証実験なので、レーザーに照射された模擬ターゲットは、消滅する事なくそのまま直下にあるターゲット回収装置(図2の⑦)で捕獲され、再びターゲット供給装置へと送られます。この装置は少なくとも2時間以上、安定して動作させる事が出来ております。

今後は、

  • 燃料ターゲットをより高速に打ち込む
  • 高出力レーザーで実験できるよう大型ミラーで追尾する
  • レーザーの本数を増やす
  • より長時間安定にシステムを動作させる

ということに注力して、開発を進めたいと考えています。

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LIFT 図1 出典元

T. Norimatsu et al 2017 Nucl. Fusion 57 116040
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1741-4326/aa7f07

装置についての学術的成果については下記論文をご参照ください。

Y. Mori et al., Fusion Sci. & Technol. vol. 75, 36 (2019).
https://doi.org/10.1080/15361055.2018.1499393

Y. Mori et al., Nucl. Fusion vol. 62, 036028 (2022).
https://doi.org/10.1088/1741-4326/ac3d69

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